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社長のコラム 「しゃコラ」

映画『ELVIS』

2024-03-04
何気なくNetflixで見つけた2022年のハリウッド映画『ELVIS』。「なぜ、今エルヴィス?」程度で期待もしていなかった。ところが、冒頭から自称エルヴィスフリークの私がうなるほどの見事な映像美が展開。一気に物語の中に吸い込まれ、手に汗をかくほど見入ってしまった。

1954年、メンフィスのスタジオ。まだ素人だったエルヴィスが軽いジョークのつもりで録音した「ザッツ・オールライト・ママ」が、すべてを変えることに。パワーと自由さがあふれ出るこの歌声が流れた瞬間、地元のラジオ局へは問い合わせが殺到。未だ差別意識の色濃かった50年代において、黒人の歌は白人にとって"タブー"。そこへ風穴をあけたのが他でもないエルヴィス・プレスリー。

あまりにも鮮烈なデビューだった。エルヴィスの存在とその音楽は、当時としてはまさに衝撃的。叫ぶように歌う、エネルギーに満ちた歌は、それまでの音楽とはまったく違う、若者たちのための新しい音楽。常識にとらわれない彼の存在が、現在まで世界中を熱狂させ続ける音楽を誕生させた。そう、ロックンロールだ。それは熱気に満ちた新時代の夜明け、そして自由の象徴だった。

その姿、歌声、立ち居振る舞いのすべてが、若者からの熱狂的な支持の反面、大人たちの非難を一身に受けてもいた当時のエルヴィス。そんなエルヴィスが周囲からの圧力に屈さず、自身の音楽スタイルを貫きながら名曲「トラブル」を披露するライブシーンは前半の山場。当時のエルヴィスは反体制というロックの精神。その衝撃はまさにパンクといえる。

しかし、時代は移り変わり、60年代は、甘く楽しく、毒もない代わりに、この上なく寂しく孤独であった映画音楽の時代。エルヴィスもスターの座を明け渡したかのように見えた。

ところが今も伝説として語られる68年のテレビ特番『カムバック・スペシャル』をきっかけに、エルヴィスはキングの座に見事に返り咲く。その圧倒的なパフォーマンスのラストを飾ったのが「明日への願い」だった。華麗なる復活、そして成熟味を増した歌声の魅力を見せつけるかのような名唱はメッセージ性にあふれ、観る者の胸を突き刺した。その瞬間から、世界は再びエルヴィスに夢中になった。

流行は足早に形を変えていく。でもエルヴィスは、それに流されることはなかった。彼が愛し続けたのは、ブルース、カントリー、ゴスペル、そしてロックンロール。生涯をかけて表現し続けたそのグルーヴは、時代を超えても驚くほどに鮮やかで、かっこいい。ときに優しく、ときに激しく、様々な表情を見せるエルヴィスの歌声は、まさに天から与えられた才能。

エルヴィスにとって歌うことは生きること。自らの心情のありったけを託して歌うことが、生きる術(すべ)だった。情熱を尽くした愛の告白のような歌「アンチェインド・メロディ」を歌うシーンは最後の見せ場のひとつ。待っていてほしい、愛しい女性への想いを胸に、残酷な時の流れと、安らぎの家に帰りたいと願うこの歌は、孤独に震えるエルヴィスの姿と重なり、言葉にできないエモーションを呼び起こし、胸を締めつける。そして、77年の実際のステージ映像を被せてくる演出にはしびれた。

人気絶頂で謎の死を遂げたスーパースター、エルヴィス・プレスリー。彼が禁断の音楽“ロック”を生んだライブの日から世界は一変。型破りに逆境を打ち破る伝説と、ショービジネス界の暗部が容赦なく描かれている。栄光と挫折、歳を取る不安、マネージャーのトムパーカー大佐(トム・ハンクス)と形を変えながら続くいびつな関係性、孤独な運命の残酷さが我々を飽きさせない。愛の試練に深く傷つき、苦悩し、薬に頼っていた晩年の裏側の危ない実話も…。
エルヴィスのことは、洋楽に詳しくない人でも、一度は名前を聞いたことがあるアーティスト。そんなエルヴィスの凄さとは一体何なのか?彼を死に追いやったのはいったい誰なのか?

それにしても主演のオースティン・バトラーの成り切り度はハンパない。ほぼ全編にわたり、吹き替え無しでエルヴィスになりきり歌唱とアクションを披露している。

50年代、60年代、70年代、この3つの時代のエルヴィスの歌は、それぞれ別物のように聞こえる。しかし、この映画を観終えて改めて聞くエルヴィスの歌はどれも、どこか寂しそうに聞こえるから不思議だ。伝説とは、寂しさがつきまとうということか。

今やニッポンでも生活の一部として存在する洋楽。その「伝説」について、過去と現在を行き来しながら思いを綴らせる。
そんな視点から、若い人に是非観てもらいたい映画のひとつだ。


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